2008-09-27

ヴァルプルギスの後悔 Fire1. ([著]上遠野浩平, [版]電撃文庫)

上遠野浩平の作品はどれもつながっている。それが単一の世界のさまざまな局面を描いているからなのか、複数の良く似た世界群の記述だからなのかはわからない。わからないのは気持ちが悪いんだけど、長く読み続けていると「ま、いいか」と思えてくる。謎を解こう、秘密を暴こうと言うよりも、あいまいなセカイに浸っているので十分。むしろ、すっきりしないところが次の作品を待つ気持ちにさせる。

さて、本作はブギーポップシリーズの外伝(SFマガジンの書評によれば"スピンオフ"小説)。タイトルに「1」が入っているから予測できるけど "To Be Continued" で終わっている。主人公は「炎の魔女」こと霧間凪。「炎の魔女」はお気に入りのキャラクターなんだよねえ。っていうか、ブギーポップのシリーズは凪が主人公でしょ? 自動的な変身ヒーローの方じゃないよね?

2008-09-23

もっとも美しい数学 -- ゲーム理論 ([著]トム・ジーグフリード, [訳]冨永星, [版]文藝春秋) #4

以下、要約のようなメモ。

第二章

  • ゲーム理論は経済学の普遍的な体系になりうる。
  • → アダム・スミスの思想のニュートン化
  • 「ゲーム理論と経済行動」(ノイマン, モルゲンシュテルン)
  • → 近代ゲーム理論の成立
  • 二つの単純な着想:
    • 効用: 求めるものを測る尺度
    • 戦略: どうやって手に入れるかという手段
  • たいていの場合、効用は自明ないしは明確に定義できる(と考える)。一方で、戦略は単純ではない。
  • ノイマンが証明したこと:
    • 二人ゼロ和ゲーム全般について
      実行可能な最良の戦略を見つける術が存在する。

さらにまとめると・・・近代ゲーム理論はノイマンに始まり、それは戦略についての研究である。さらにノイマンはモルゲンシュテルンとの共著でゲーム理論が経済学のための数学になりうることを示唆した、と。(ちょっと長いゾ)

2008-09-22

もっとも美しい数学 -- ゲーム理論 ([著]トム・ジーグフリード, [訳]冨永星, [版]文藝春秋) #3

以下、要約のようなメモ。

第一章

  • ニュートンが物理世界に対して打ち立てた自然法則という概念を、経済交流という社会的な世界に対しても導き出そうとした。それがアダム・スミスの国富論である。
  • 国富論で描かれた法則はダーウィンの進化論にも影響を及ぼしている。
  • 世界を科学的に理解し、要約した三部作:
    • ニュートン: 「プリンキピア」
    • スミス: 「国富論」
    • ダーウィン: 「種の起源」
  • 20世紀半ばに登場した「ゲーム理論と経済行動」(ノイマン, モルゲンシュテルン)はこれに匹敵すると言われる日が来るかもしれない。

ちょっと、スミスの「国富論」に興味を引かれた。

もっとも美しい数学 -- ゲーム理論 ([著]トム・ジーグフリード, [訳]冨永星, [版]文藝春秋) #2

以下、要約のようなメモ。

序章

  • ゲーム理論は、人間の行動をより深く理解し、未来を予測しようという目的の下で生まれた
  • 21世紀に入るころには、人類学から神経生理学に至るまでの広範な分野で使われるようになった。
  • ゲーム理論は、すべての科学が研究対象としている現実世界の規則性を映し出す非常に強力な方法を提示している。
  • その数学を使えば、アシモフが思い描いたように、文明の文化や経済や政治といったものを作り出す集団としての社会的振る舞いが説明できる。
  • 人間の相互作用に見られる自然な秩序を理解するための鍵。
  • その中で、もっとも早い時期に形となり、強い影響力を持ったものの一つが「経済システム」という概念である。

さらにまとめると・・・ゲーム理論は集団としての人の振る舞いをモデル化するための数学理論である、となるか。

もっとも美しい数学 -- ゲーム理論 ([著]トム・ジーグフリード, [訳]冨永星, [版]文藝春秋)

もっとも美しい数学 ゲーム理論
トム・ジーグフリード
文藝春秋 ( 2008-02 )
ISBN: 9784163700106
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

2008-09-17

新ネットワーク思考 -- 世界のしくみを読み解く ([著]アルバート=ラズロ・バラバシ, [訳]青木薫, [版]NHK出版) #6

まとめ

15章。

第15章 クモのいないクモの巣

スケールフリーネットワークは自己組織化する構造であり、クモのいないクモの巣である。

新ネットワーク思考 -- 世界のしくみを読み解く ([著]アルバート=ラズロ・バラバシ, [訳]青木薫, [版]NHK出版) #5

スケールフリーネットワークの実例

11章から14章。

第11章 目覚めつつあるインターネット

スケールフリーネットワークの実例としてのインターネット。その歴史と展望がまとめられている。

(p.226)
パラサイト・コンピューティングはこの設定を利用して、コンピュータには普通に通信をさせておきながら、マスターホストのコマンドに応じてコンピュータに強制的に計算をさせようというアイデアだ。これを実行するために、われわれはある複雑な計算問題を、合法的なインターネットのリクエストに見せかけた。コンピュータがパケットを受け取ると、そのパケットが旅の途中で傷まなかったかどうかをチェックする手続きがとられる。その計算をするうちに、コンピュータはわれわれが与えた数学の問題を解き、それをパケットに暗号化して組み込むのである。

これについては聞いたことがなかった。なんというか「SF」的なアイデアだ。ネットのどこかで創発が生まれていたりするのかも。

第12章 断片化するウェブ

スケールフリーネットワークの実例としてのWWW。単方向リンクが持たらす特性が示されている。

  • ネットワーク全体は、四つの大陸に分断されている。
  • 全貌を誰も知らない。
    • → 検索エンジン(ロボット)が訪ずれるのは 40 % (1999年当時)に過ぎない。
第13章 生命の地図

スケールフリーネットワークの実例としての「細胞内における化学反応」ネットワーク。

  • 代謝における化学反応ネットワーク
    • → 大多数の生物で、ハブとなる分子(上位10まで)が共通:
      1. ATP
      2. ADP
  • タンパク室の相互作用ネットワーク

これら細胞内のスケールフリーネットワークはどのようにしてできあがったのか?

→ タンパク質のネットワークの場合は、遺伝子コピーの際の遺伝子重複という種類のエラーによって作り上げられたと考えられる。ただ、これが唯一の要因とは限らないし、代謝ネットワークについては、当てはまるかどうか不明。

遺伝子を解読しただけでは生命現象の持つ複雑さ、多様性を説明できない。ネットワークこそがカギとなる。生命の(細胞内の化学反応の)ネットワークを解明することで、ヒトの病気の治療に役立つ。

第14章 ネットワーク経済

スケールフリーネットワークの実例としての「経済(ビジネス)世界で見られる様々なネットワーク」

  • (大企業の)取締役会: ハブが存在する。
    • → ここで言うハブは、複数の企業の取締役会に属している役員のこと。
  • シリコンバレーの従業員ネットワーク

これらビジネスの世界におけるネットワークがスケールフリーネットワークの特性を示すことの事例として以下が挙げられている:

  • カスケード故障(cf. p.172): アジア通貨危機
  • ウイルス的伝播(第10章): Hotmailの成功

新ネットワーク思考 -- 世界のしくみを読み解く ([著]アルバート=ラズロ・バラバシ, [訳]青木薫, [版]NHK出版) #4

ネットワークの特性

9章と10章。

第9章 アキレス腱

ハブを持つネットワーク(適応度付きの成長するスケールフリーネットワーク)は以下のような特性を持つ:

  • 故障に強い
  • (意図的な)攻撃に弱い
第10章 ウイルスと流行

(第9章の続き)
ハブを持つネットワークは以下のような特性も持つ:

  • ウイルスのような感染(ウイルス感染型の拡散)に弱い

言い方を変えれば、これがネットワーク(ハブを持つ・・・)の中を「何か」が拡散するときに示す特性。

2008-09-14

新ネットワーク思考 -- 世界のしくみを読み解く ([著]アルバート=ラズロ・バラバシ, [訳]青木薫, [版]NHK出版) #3

ネットワークモデルの進展

2章から8章まで。

第2章 ランダムな宇宙
  • ランダムネットワーク
    • グラフ理論 (ケーニヒスベルクの橋問題)
    • エルデシュ
  • → 巨大クラスターとなる(全てのノードがつながる)。
  • → 現実を写しとったモデルとは言えない。
第3章 六次の隔たり
  • ランダムネットワークは参加するノードの数とくらべて、直観に反するほどノード間の距離が小さい。
  • → 小さな世界
    • → 巨大クラスター(全てがつながる)となるから。
第4章 小さな世界
  • エルデシュ=レーニィのランダム・ネットワークモデル
    • → ネットワークが巨大な(単一の)クラスターになる(全てがつながる)。
  • グラノヴェッター
    • → 社会は高度に相互連結されたクラスタ構造 ⇒ ワッツ=ストロガッツのモデル
    • → 様々な(現実の)ネットワークにクラスタ構造が見られることがわかってきた。
第5章 ハブとコネクター
  • ハブとコネクターが存在する。
    • → クラスター構造でもない。
  • 三つの疑問
    • ひとつのネットワークに対し、ハブはいくつ存在するのか(できるのか)?
    • どのようにしてハブはできるのか?
    • なぜ、これまでのモデルではハブの存在を説明できないのか?
第6章 80対20の法則
  • スケールフリーネットワーク
    • → ベキ法則にしたがうネットワーク
    • → ハブが存在しうる。
  • 自己組織化、相転移が起きるときスケールフリーネットワークが出現する。
第7章 金持ちはもっと金持ちに
  • (現実の)ネットワークはランダムではない。
    • → 成長する。
  • ノードは平等ではない。
    • → 優先的選択(多くのリンクを持つノードほど、さらにリンクを獲得しやすい)
  • 「進化するネットワーク」の理論
    • → 自己組織化も相転移もいらない。成長と優先的選択という組織化の原理で説明できる。
第8章 アインシュタインの遺産
  • 「進化するネットワーク」の理論により生まれるスケールフリーネットワークには新入りが成功する見込みがない。
    • → これも、現実とは異なる。
  • 優先的選択に対して、適応度を取り入れる。
    • → 競争と成長による適応度モデル
    • → 新入りが生まれる余地ができる。
  • 「一人勝ち」ネットワーク
    • ある種のスケールフリーネットワーク(適応度つき)では「一人勝ち」が起きる。
    • → マイクロソフトがその実例

新ネットワーク思考 -- 世界のしくみを読み解く ([著]アルバート=ラズロ・バラバシ, [訳]青木薫, [版]NHK出版) #2

導入

第1章がこの部分。

  • 還元主義の限界
  • 部分を組み上げることができない。
    • 複雑性
    • 自己組織化
    • → どちらも「ネットワーク」がキーワード
  • ネットワークの普遍性
    • どこにでも見つけることができる。
    • → ネットワークで世界を理解できるのでは?

邦題の副題にもなっているように、世界のしくみを理解することが本書の目的。ネットワークの理論を通して、世界を見るということ。

新ネットワーク思考 -- 世界のしくみを読み解く ([著]アルバート=ラズロ・バラバシ, [訳]青木薫, [版]NHK出版)

構造

内容
1 導入。目的定義。
2 〜 8 ネットワークモデルの進展
9 〜 10 ネットワークの特性
11 〜 14 スケールフリーネットワークの実例
15 まとめ
新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
アルバート・ラズロ・バラバシ
NHK出版 ( 2002-12-26 )
ISBN: 9784140807439
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

2008-09-06

時砂の王 ([著]小川一水, [版]ハヤカワ文庫/HJA901)

眠る前にちょっとだけ、と読み始めたら一気に読了。金曜の夜で良かったよ。

時間SFとしては「夏への扉」のような感じか? いやいやエンディングを思えば「未来からのホットライン」(J.P.ホーガン)を思い出させるかな。戦争SFっぽさを見るなら「宇宙の戦士」か。いやそれより「終わりなき戦い」(ジョー・ホールドマン)と言うべきか。

読み終えてすぐに思ったこと。「これアニメ化しないとダメでしょ」。