2008-05-19

文化としての数学 ([著]遠山啓, [版]光文社文庫)

III 数学はどう発展したか

数学の歴史的発展 (p.148〜p.176)

数学史の時代区分

数学の発生以来の歴史を概観するために、数学史を四つの時代に分け、分け目の標識として三つの著作をあげている:

(1) 古代: 経験的、帰納的。
← (A) ユークリッドの『原論』
(2) 中世: 演繹的であり静的(『原論』の特徴)。アルキメデスはこの枠に収まらない特異な存在。
← (B) デカルトの『幾何学』
(3) 近代: 動的であり帰納的。自然科学と密着していた。
← (C) ヒルベルトの『幾何学基礎論』
(4) 現代: 構成的であり静的。

未来への展望

では、この先もヒルベルト以降の「構成的で静的な数学的構造」が数学の主役であり続けるのだろうか。著者は言う:

・・・近代数学の主役は運動と変化であった・・・いわば時間的であった。・・・これに対して現代数学では運動や変化は背景に退いて、・・・構造が正面に出てきた。それは空間的であるといえよう。・・・実在は空間的ばかりではなく時間的でもあるとすると、それに対応する数学もやはり時間的・空間的でなければならないだろう。そのような数学はいまのところ生まれてはいないが、未来の数学はおのようなものとなるかも知れない。
(p.174)

さらにウィーナーの神経生理学の将来についてのべた文を引用した後で、こう結ぶ:

それ(未来の数学のこと)は開放的で動的であり、しかも構造をもつ生体をモデルとするものであろう。そのとき今日のように「ドライ」な数学ではなく、「ウェット」な数学が生まれてくるかもしれない。

この「数学の歴史的発展」は1967年に発表されたもの。すでに40年以上前の展望だ。最先端の数学がどうなっているかは知らないが、「生体をモデルとする」ような発展はしてこなかったように思う。その代わり、コンピュータという別の動的側面を持つ存在に影響を受けて変わったのではないか?

ヒルベルト以降の数学の歴史はコンピュータの登場をもって区切れる、と考えるのは、数学よりもコンピュータに深く関わっているからだろうか?

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